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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(6)
経済小説
2012年10月18日 07:00

<谷野頭取包囲網(6)>
 谷野頭取を更迭した後の頭取を誰にするかは、行外および行内に大きなインパクトを与えることになり、クーデター後の成否を占う重要な問題であった。
 沢谷が次期頭取として吉沢の名を上げたのは、昨晩からずっと考え抜いての結論であった。
沢谷は、谷野のあとの頭取には誰が相応しいかに頭を悩ませていた。まず北野を候補の一人として考えてみた。沢谷の耳に入ってくる北野は常務取締役安芸本部長として、地元銀行の広島銀行やもみじ銀行を相手に営業手腕を発揮して健闘しているとの評価はあるものの、側近の行員を何人も鬱病で潰しており、行内で北野を見る目は厳しかった。もし北野が頭取になればかえって反発を招き、クーデターが失敗に終わる危険性すら予想され、頭取候補としては外さざるを得なかった。

kaigi_2.jpg 次に営業本部長として采配を奮っていた川中常務について考えてみた。川中は谷本相談役と同窓のS大学出身で海外勤務も経験もあり、人当たりは良く行内の評判は決して悪くはなかった。
 しかし営業本部長としての資質を栗野会長から問われるほど指導力に欠け、実績も目に見えるものはなかった。銀行の実務政策を遂行する手腕に難点があり、次期頭取候補としては及第点に至らなかった。
 沢谷が次期頭取に吉沢の名を上げたのは、吉沢は谷本と同じくS大学の同窓であり、現在常務取締役西京支店長として、西部県や西京市などの地公体トップや地元経済界の代表とも友好な関係を維持していることや、行内での評判も悪くはなかった。また谷野とは違い第五生命の山上とも懇意な関係にあり、年齢も谷野より3才若く次期頭取としての資格は十分に備えており、谷本も恐らく反対はしないだろうとの読みが沢谷にはあった。

 それに谷野のあとを継ぐ次期頭取は、組合出身役員の合意に基づき選ばれる者であり、協調性の点から見ても年齢構成から見ても、中庸の吉沢が適任との考えによるものであった。
 沢谷は谷本相談役と次期頭取について話をしたわけではなかった。ただ、自分が主催したこの会議において、ある程度の意見集約をしておきたいと思っていたし、今後「TK計画」を進めていく上で、主導権を握っておきたいとの思惑からの発言であった。
 しかし沢谷に突然次期頭取に指名された吉沢は考え込むように、
「非常に有難いお話ではあるが、谷本相談役や栗野会長のお考えも聞かなくてはならないし、今ここで決めるのはどうかと思う。それに谷野頭取更迭の理由が見当たらないこともあり次期頭取についても、もう少し待って決めてもいいのではないかと思う」
と、高揚した周囲を宥めるように話した。
 この吉沢の発言により、次期頭取を誰にするかの結論は持ち越しとなった。頭取への野心を密かに持っていた北野は、吉沢の、「もう少し待って決めてもいいのでは」との言葉を聞き、人知れずほっと溜息を吐いた。二時間におよぶ話し合いが終り、4人は連れ立って夜の町に足を運んだ。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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